簡単すぎる密室殺人

ショートショート・短編小説

大型ショッピングモールの多目的トイレ内で女性の遺体が発見された。

死亡したのは35歳の主婦である。

死因はナイフで腹部を刺されたことによる出血死。

遺体が発見されたときは内側から鍵がかけられていた。

発見したのは警備員の男性である。

このトイレは施錠されてから1時間以上、解錠されないと自動的に管理センターに通知される仕組みになっている。

通知を受けた警備員が管理室のコンピューターからドアを解錠して被害者を発見したのである。

ショッピングモール内には防犯カメラが設置されていたがトイレのある場所はちょうど死角になっていて犯人らしき人物は映っていない。

現場に駆けつけた左京警部に部下の刑事が言った。

「警部、トイレの内側の開閉ボタンから被害者の旦那の指紋が検出されました。

被害者は旦那と一緒にこのショッピングモールに来たようですが、旦那は先に帰ったようです。

いま旦那と連絡をとってこっちに来てもらっています。」

10分もしないうちに旦那がやってきた。どうやら近所に住んでいるようだ。

旦那は落ち着いた様子で話し始めた。

「妻とショッピングモールで買い物をしていたのですがお腹を壊してしまったので先に帰ってきたのです。そのときに、このトイレは使いました。指紋はそのときについたのではないでしょうか?」

ハクション!

左京警部が大きなクシャミをした。

「これは失礼しました。花粉症なものですから。ご主人、ティッシュをお持ちでしたらお借り出来ませんか?」と左京警部が聞くと、旦那は「あいにく私はそういうものは持ち歩きませんから。すいません」と答えた。

この日はこれで終了し、後日、警察で任意の事情聴取が行われた。

左京警部「お聞きしたいのですがあなたはあのトイレを使った時に排便されましたか?」

旦那「はい。汚い話ですが下痢をしていました」

左京警部「そうですか。これで分かりました。あなたが犯人ですね?」

旦那「なんてことを言うんですか?妻の遺体が見つかったときトイレは鍵がかかっていたんですよね?どうやって私が脱出したんですか?」

左京警部「それは簡単なトリックです。この手のドアは内側から閉めるボタンを押せば自動で扉が閉まり、同時に鍵もかかります。しかし閉めるボタンを押してからドアが閉まるまでには数秒かかります。ボタンを押してからすぐに外に出れば簡単に密室を作る事が可能なんですよ」

旦那「しかしそれだけでは、私が犯人とは決められないでしょう?」

左京警部「そうです。しかしさきほどあなたは自分で犯人だと認めました。あなたはこのトイレに排便するために入ったと言いました。そして下痢をしていたと言ったのです。もしこの話が本当だとすると、肝心なものが見つからないとおかしいのです」

旦那「何が見つからないと言うんですか?まさか排出物が見つからないとか言うんじゃないでしょうね?そんなものは流されてしまったんだから見つかるわけありませんよ」

左京警部「違います。そんなものではありません。見つからないのはあなたの指紋です。トイレットペーパーのホルダーについているはずの指紋です。男性でも大便をすれば必ずトイレットペーパーを使いますよね。あなたはティッシュを持ち歩く習慣がないのですから、備えつけのトイレットペーパーを使わなければなりませんよね?」

その後旦那は罪を認めた。

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