数時間前のことを思い出していた。
俺は自殺をしようとして崖の上に立っていた。
そこで中年の男に話しかけられた。
なぜかその男に俺は自分の身上話をしていた。
この男も俺と同じように学生時代はイジメに遭っていたらしい。
だが努力して医者になったのだとか。
男は俺にある提案をした。
「死ぬ覚悟があるなら整形手術をして生まれ変わらないか? 費用は要らないよ」
どうせ死のうと思っていたのだからそれも悪くないか……無料だし。
そう思ってそのまま彼の病院に着いて行った。
病院に着いたあとのスタッフの段取りの良さに少し違和感を覚えた。
まるで俺が最初からここに来るのを分かっていたような気さえする。
だけどそんなことはどうでもいい。俺は生まれ変わるんだ。
だいぶ麻酔が効いてきた。
俺をイジメていた奴らの顔が浮かんでくる。奴らは生まれながらに運が良い。
山田の親は優秀な外科医で、佐藤の親は弁護士。
田中の親は何だっけな? えーと……何かのブローカーと言ってたな。
不動産だったか? いや違う。
自動車? でもない。
まあいいや、もう眠くてしょうがない。
この眠りから覚めたときに俺は生まれ変わるんだ。
「山田先生、取り出した腎臓はどうしますか?」
「田中さんに送っておいてくれ」
【解説】
この医者は俺をイジメていた山田の親である。
そして田中の親は臓器のブローカーである。
彼らは結託し子供たちに誰かをイジメさせて自殺に追い込む。
仮に問題が起こっても弁護士である佐藤の親がなんとかするという算段である。