初めて彼女の美咲を家に連れてきたとき、彼女は父とすぐに意気投合した。
僕が席を外している間に、二人は冗談を言い合うほど親しくなっていた。
「いいお嬢さんじゃないか。明るくて、気立てもいい」
美咲を駅まで送って僕が帰宅すると、父は上機嫌でそう言った。
僕は嬉しかった。父は人を見る目が厳しく、僕の友人に対しても滅多に褒め言葉を口にしないからだ。
ところが、それ以来、父の美咲に対する態度は少しずつ度を越したものになっていった。
デパートに買い物に行けば、美咲に似合う服を探して何時間も売り場を歩き回る。気に入ったものがあれば値札も見ずに買ってしまう。
「また美咲にプレゼント?」
ある日、父が持ち帰った紙袋を見て、僕は思わず言った。
「この色はあの子によく似合うと思ってね」
父は悪びれる様子もない。
「実の娘がいたって、そこまではしないでしょうね」
母が笑いながら言うと、父は照れくさそうに答えた。
「美咲さんには、幸せでいてほしいからな。あの子が喜ぶことなら、何でもしてやりたいよ」
父は近頃、美咲の話になると必ずと言っていいほど「幸せ」という言葉を使う。まるで美咲の幸せが自分の使命であるかのようだ。
少々入れ込みすぎではないかと思ったが、父の選んだ服はどれも美咲によく似合っていたし、彼女も素直に喜んでいた。
父には僕しか子供がいない。きっと娘ができたようで嬉しいのだろう。僕はそう考えて、父の行動をあまり気にしないことにした。
* * *
ある日、父は、すっかり我が家の常連になっていた美咲を、また夕食に招こうと言い出した。
「また美咲を呼ぶの? この前も来たばかりだよ」
「何度来たっていいじゃないか」
「わかった。美咲に聞いてみるよ」
「ぜひ来てもらいなさい。あの子の将来のためにも、いろいろしてやりたいと思っているんだ」
「将来?」
「ああ。美咲さんには、いい人生を送ってもらいたいからな」
父の言葉は少し引っかかったが、美咲のことになると何かと大げさになる父のことだ。深く追及はしなかった。
美咲に夕食の誘いを伝えると、喜んで応じてくれた。
* * *
日曜日の夕方、僕は美咲を連れて家に帰った。
食卓には母の手料理が並んでいた。美咲の好物ばかりだった。
父はとっておきのワインを用意し、いつもよりきちんとした服装をしていた。
「今日はずいぶん気合いが入ってるね」
僕が言うと、父は笑った。
「大切なお客さんが来るからな」
「美咲なら、もう何度も来てるじゃないか」
父は何も答えず、時計を見た。
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
「お、来た来た」
父は嬉しそうに立ち上がった。
やがて父に案内されて、一人の若い男が居間に入ってきた。
僕より二つか三つ年上だろうか。背が高く、仕立てのいいジャケットを着ていた。顔立ちも整っていて、いかにも育ちがよさそうだった。
「紹介しよう。こちらは高瀬君。私の昔からの知り合いの息子さんだ」
男は丁寧に頭を下げた。
「高瀬です。今日はお招きいただき、ありがとうございます」
僕たちも挨拶を返した。
「高瀬君はね、アメリカの大学を卒業して、今は外資系の投資銀行で働いているんだ」
父は得意そうに彼の経歴を語った。
* * *
高瀬は話題が豊富だった。外国での暮らしや仕事の話を面白おかしく語り、母を何度も笑わせた。
美咲がヨーロッパの街並みに興味があると話すと、高瀬は旅行先で撮った写真をスマートフォンで見せてくれた。
「この街、行ってみたかったんです」
美咲が目を輝かせた。
「ぜひ行ってみてください。写真で見るよりずっと素敵ですよ」
二人は楽しそうに話していた。
父はその様子を満足げに眺めていた。
僕は面白くなかった。父にそっと顔を寄せ小声で尋ねた。
「ちょっと。どうしてあの人を呼んだの?」
「どうしてって、美咲さんにぴったりの青年だと思ってね」
「ぴったりって、何が?」
「何がって、結婚相手としてだよ。年齢もちょうどいいし、趣味も合いそうじゃないか」
僕は耳を疑った。
「ちょっと待ってよ。僕はどうなるんだよ?」
すると父は、きょとんとした顔をした。
「お前?」
「そうだよ!」
父は不思議そうに僕の顔を見つめ、それから安心させるように言った。
「心配するな。お前にも、美咲さんのような素敵なガールフレンドを探してやる」
