創業三年目のスタートアップ企業、キラキラテック株式会社の社長である出田のもとに、一通のメールが届いた。
件名は「社長インタビューのご依頼」。
差出人は、『ミラクルビジネスマガジン』というウェブメディアだった。
「おお、ついにうちにも取材が来たか!」
出田は喜んだ。
これまで自社の知名度を上げようと、SNSでの発信やプレスリリースに力を入れてきた。しかし、思うような成果は出ていなかった。
そんなところに、向こうから取材の依頼が来たのである。
さっそく部下を呼んだ。
「見てくれ。ミラクルビジネスマガジンというメディアから取材依頼が来たぞ!」
部下はメールに目を通した。
「社長、これ、いわゆる取材詐欺ですよ」
「取材詐欺? どういうことだ?」
「ここに書いてあります。取材を受けるには、協力金として三十万円を支払わなければならないのです」
「それがどうした?」
部下は呆れたように、説明を続けた。
「普通、取材を受ける側がお金を払うことはありません。これは取材を装って、記事の掲載料を取る詐欺なんです」
「君は何でも疑いすぎだ。メールには、うちの事業のことまで書いてあるじゃないか。そこまで調べて取材を申し込んできたんだぞ」
「でも、三十万円も払うんですよ?」
「いい記事を作るには、取材や編集にも費用がかかるんだろう。それくらいは協力してやらないとな」
部下はなおも説得しようとしたが、出田は聞く耳を持たなかった。
出田の頭には、すでに別の光景が浮かんでいた。
『若き起業家が描く、日本の未来』
そんな見出しとともに、自分の写真が大きく掲載される。記事を読んだ客から連絡が入り、大企業からは提携の申し出が殺到する。
「スタートアップにとって知名度は命だ。こういう機会を逃してはいけない」
「ですが、そもそもそのメディアに読者がいるのでしょうか……」
「心配するな。多くの経営者が読んでいるとメールに書かれていたんだ。問い合わせだって増えるはずだ」
出田はその場で取材を申し込み、指定された口座に三十万円を振り込んだ。
* * *
一週間後、オンライン取材が行われた。
記者は若い女性で、出田の創業秘話や経営理念を熱心に聞いてくれた。
「社長のお話、本当に素晴らしいです。ぜひ多くの方に知っていただきたいですね」
出田はすっかり上機嫌になり、自分がいかに優秀な経営者であるかを熱弁した。
数日後、記事が公開された。
『業界に革命を起こす! キラキラテック株式会社出田社長が語る、次世代ビジネスの可能性』
記事には腕組みをした出田の写真が大きく掲載されていた。さらに、経営者のインタビュー記事ではお決まりの、両手を胸の前にかざし、見えないロクロでも回しているかのように熱弁する写真まで添えられていた。
「おお、いいじゃないか!」
出田は大喜びだった。
翌日からは、会う人ごとに聞いた。
「この前、私のインタビュー記事が出たんですよ。見ました?」
「えっ、どこに?」
「ミラクルビジネスマガジンです」
「……聞いたことないですね」
別の取引先にも尋ねた。
「記事、読んでいただけました?」
「いやあ、そのサイト自体、初めて知りました」
経営者仲間にも自慢したが、反応は似たようなものだった。
誰もそのサイトを知らなかった。
出田は少し落胆したが、すぐに気を取り直した。
「まあ、記事はネットに残るからな。これから読まれることもあるだろう」
* * *
記事が公開されてしばらく経った頃、会社への問い合わせが急に増え始めた。
「社長! 問い合わせが三件来ています!」
「ほら見ろ! やっぱり取材の効果が出てきたじゃないか!」
出田は得意満面だった。
しかし、問い合わせの内容は妙だった。
「社長だけにご案内する、特別な投資案件があります」
「御社の企業価値を百倍にする経営コンサルティングをご提案します」
「絶対に儲かる海外不動産のご紹介です」
どれもこれも問い合わせというより、怪しい勧誘だった。
「なんだこれは! まともな問い合わせが一つもないじゃないか!」
出田は腹を立てた。
その後も怪しい電話やメールは増える一方だったが、肝心の仕事につながる問い合わせは一件もなかった。
「三十万円も払ったのに、何の効果もなかったじゃないか……」
* * *
出田はすっかり落ち込んで、知り合いの社長に愚痴をこぼした。
「新規の客が全然増えなくて…」
「そうですか。うちは最近、営業成績がずいぶんよくなりましてね」
「何か秘訣でもあるんですか?」
「営業先の選び方を変えたんですよ。ちょっとお見せしましょう」
知り合いの社長は、その場でノートパソコンを開いた。
画面には、全国の経営者の名前と連絡先がずらりと並んでいた。
「このデータベースは信用調査会社で買ったんですけど、こうやると購買確率の高い順に並べ替えることができるんですよ。ほら」
操作後の画面の一番上には、こう表示されていた。
キラキラテック株式会社 出田 狩男
購買確率:99%
備考:お金を払ってまで無名メディアの取材を受ける、典型的なカモ。
