俺の自宅は郊外にある。
会社にはいつも1両しかないローカル電車で通っている。
こんな山奥の電車だから幽霊に遭遇することもたまにはある。
先日も怖い体験をした。
その日は会社少し早く終わったので中途半端な時間の電車に乗った。
そのせいもあり1両しかない車内には自分しか乗っていなかった。
自宅の最寄駅は終点なので安心して眠り始めた。
しばらくして目を覚ますと終点の1つ手前の駅に着いたところだった。
すると一人の女が乗ってきた。
そんな時間に乗ってくる人はいないので不思議な感じがした。
黒くて長い髪と、色白の肌が不気味な雰囲気を漂わせていた。
目は細く切れ長で、唇は生気のない色をしていた。まるで幽霊のようだった。
1両しかない電車にこんな気味の悪い女と2人きりで嫌な予感がした。
しかし眠くて頭もボーッとしていたので気にしないようにした。
そうだ寝てしまおうと思い、再び目を閉じた。
すると女の方から不気味な臭いがしてきた。鼻にツンとくる嫌な臭いである。
そういえば昔、この近所で薬品を吸って頭がおかしくなった女が電車に飛び込んで死んだ事故があった。
まさかそのときの幽霊だろうか?と不安になった。
臭いがだんだんと強くなってきて、自分のほうに近づいてくるのが分かった。
もうダメだ!と思ったそのとき、聞き覚えのある声がした。
「あら、やっぱりそうだわ」
目を開けるとそこには近所のスナックのママが立っていた。
見慣れた顔に少しほっとした。
(END)
【解説】
幽霊のような女はスッピンのママだったのである。
車両を見渡すと先程の幽霊のような女はいなくなっていた。
さっきの駅を出発してから電車は一度も停車していないはずである。
あの女はどこへ消えたのだろうか?
そしてママはどうやってこの電車に乗ってきたのだろうか?
さきほどまでの出来事を話すとママは今までに見たことのないような怖い顔をした。
そして「そのことは絶対に口にしてはいけないわ。あなたの身に危険が降りかかるわよ」と強い口調で言った。
ママの緊迫した表情に事の重大さを理解した。俺はどうやら本物の幽霊を見ていたようだ。
その後、無事に終点に着いてママとはそこで別れた。
家に着いてスーツを脱ぐとママの化粧の臭いが少しうつっていた。
あのママは化粧が濃いからなあ。